2022/04/05 15:41

桜の開花とともに芽をだす京都の筍

 あちこちで桜が満開の京都の春。
涼やかな風が抜ける竹林では、小さな芽が綺麗に手入れされた黄金色の絨毯のような土を割りだします。


 京都の中心地から車で西へ約30分ほどのエリアにある大原野は、希少な白子筍の産地。
「白子筍」はその名の通りとても白いだけでなく、たとえようのない淡く甘い香りと柔らかさから、京都市内だけでなく全国の高級料亭や日本料理店などの御用達。特に3月末頃の白子筍は数が少なく、代々この地で筍農家を営んできた農家さんの白子筍は販売先が決まっているため、ほとんど市場に出回りません。4月初旬あたりからようやく「大原野たけの子」として市場に出回ります。


ふかふか絨毯に優しく差込む光

 白子筍が育つ竹林は、風が涼やかにぬける心地よさがあります。
何代にもわたって受継がれてきた知識と技術と経験からくる勘で、美しく整備されています。土と堆肥の割合や、陽の光のとりこみかたを計算し、まるで絨毯のうえを歩いているかのようなフカフカの土壌を何年も維持しています。陽の光が強すぎても弱すぎても良い土壌にならず香しく柔らかい白子筍に育たない、100年以上もの長い時を経て培われた知恵の結晶でもあるのです。

そんな「大原野たけの子」も、後継者がいないことから生産農家は年々減っています。
一流の料理人に認められ多くの食通に愛されてきたこの地の筍も、いつか口にすることができなくなるのかもしれないと思うと、残念な気持ちでいっぱいになります。



受継がれてきた知恵と技は日本の文化

 「大原野たけの子」が選ばれ愛されてきたのは、育てかたへのこだわりによる美味しさの違いです。
今ではあたりまえに耳にする朝掘りも、ずっと昔は広く知られたことではなくそれぞれの農家によって違っていました。今でも、全国有数の筍の産地である西京区大枝、大原野界隈の筍農家さんからは、十人十色こだわりの育てかたを聞くことができます。そこには、それぞれの農家の知恵と技が詰まっていて、細部にまで手を抜かない日本の文化を感じます。

そんな農家さんの一人である向井農園のこだわりを紹介します。

〇〇 〇〇
粘土質、赤土など保水性に優れた土と敷き藁などにより、水分と養分と適度な空気を取入れた土壌

〇〇 親竹 〇〇
若くて健康な親竹のみを適正な感覚で残しながら葉や枝を切り(芯止め)太陽の光を十分浴びられる環境と、畑の下草を引き一本ずつの竹に栄養が行き届く環境をつくりあげます。一本一本人の手で行う芯止めは手間と時間と根気のいる作業で、いまでは行っている農家さんはほとんどないかもしれません。

〇〇 収穫 〇〇
筍は、空気に触れ光が当たると乾燥して固くなってしまいます。そこで京都では「朝掘り」と言い、まだ土から頭をだす前の筍を朝薄暗いうちから収穫します。地中でしっかり根を張った姿の見えない筍を、薄明りのなかで傷つけずに掘る技は習得するのに何年もかかります。

このこだわりが美味しい筍を育て、私たちの食卓に春を届けてくれるのです。


より美味しい筍の食べかた

 大原野の白子筍は瑞々しくて香りがよく柔らかいので、スライスしてワサビ醤油で食べたり、アサリとあわせて酒蒸しにしたりと、香りと甘みを感じるシンプルな料理がよく合います。もちろん、炊合せ、筍ご飯、サラダ、若竹煮、どんな料理も美味しくできますが、向井農園の向井さん曰く「大きさによって歯ごたえが違うので、大きさによって変えるとさらに美味しくなる」のだそうです。

400gくらいまでの小さめなら、お吸もの、和えもの。
800gくらいまでなら筍ご飯、若竹煮、お刺身(京都ではスタンダードな食べかた)。
シーズン中盤の4月半以降から大きめサイズが増えだします。大きめのものは、根元に近い部分は煮もの、穂先は筍ご飯や和えものといううふうに使い分けができるのも嬉しいですね。

使いきれない時は、ぬか漬け、粕漬、味噌漬けにすると保存期間が長くなります。
和洋中、食べかたのバリエーションがとっても豊富な筍。長く継承していきたいものです。