2023/02/05 23:32


竹林の影で育てる原木椎茸

有数の筍産地である京都大原野では、竹林の影を利用して原木椎茸を栽培している農家があります。


数ある筍農家のなかでも、白子たけのこと言われる真っ白で柔らかい筍を育てるためには、綺麗に整備され適度に射しこむ陽と、さわっと葉を揺らすくらいの風、そして適度な水分を含んだ肥沃な土が欠かせません。白子たけのこにとって最適なその環境が原木椎茸にもちょうどよく、肉厚でジューシーな椎茸が育つのだそうです。


竹林は決して平たんではない、いわば山。
山には斜面もあれば、少し開けたような個所もあり、全てに均一に陽が射しこむわけでないので、どうしても日陰になる一面にダボ(山から伐採してきた椎の木)を並べています。屋根がある建物のなかではないので、寄ってくる虫や雨から守るために、椎茸一個ずつにカバーをかけ、日々、大きさと傘の開き具合を確認しながら大事に育てられています。


自然栽培の椎茸

今でこそ店頭に一年中並ぶ椎茸も、本来は春と秋の二回収穫の時期があります。
春子と冬子、可愛いネーミングですよね。時期によって旨味が違うとされていて、冬の寒い時期をダボのなかで過ごした2月頃の春子はひときわ旨味が強いようです。他にも、傘が開いていないものを冬菇(どんこ)と、傘が開いたものを香信(こうしん)と呼び、乾燥させると少しお高めに価格で店頭に並ぶのが冬菇です。


収穫する時期がほんの少し違うだけで、冬菇になるか香信になるかが変わりますが、自然の力は偉大なので、思ったように絶妙のタイミングで全て収穫できるわけでなく、冬菇として出荷できるものはそれほど多くありません。特に天候が不安定な時期には、天気予報をチェックしながら、雨が降る前には収穫してしまいたいと思うものの、数百本のダボからたくさんの椎茸が…。


とても一人で収穫できる数ではなく、どうしても傘が開いた香信が多くなるのと、雨に濡れるものもでてきます。
雨に濡れてしまったものを「雨子(あまこ)」と言い、雨に降られず程よい大きさまで育ったものを「日和子(ひよりこ)」と言うそうです。日和子の冬菇は生のまま出荷、日和子の香信は乾燥させて干し椎茸として販売しますが、開きすぎた香信は乾燥させる際に形が悪くなりがちなので、スライスしてから乾燥させ出荷する農家さんも少なくないようです。雨子の場合は、冬菇、香信ともに色が悪くなってしまうので、生でも乾燥でも販売が難しく廃棄するしかないこともよくあるそうで、なんとももったいない話です。




出汁がよくでるのは香信

一般的に、店頭に並ぶ形や大きさの揃った冬菇の干し椎茸は高級品で、とてもいい出汁がでると言われます。たしかに、少し澄んだような琥珀色の淡い香りの出汁は、癖がなく美味しい。冬菇の色も形も綺麗なので、含め煮など見栄えをよくする必要がある料理には欠かせません。一方、香信の干し椎茸は出汁の色も少し濃いめで香りが強いように感じますが、普段使いの料理の出汁としては使い勝手がいい。水に浸け冷蔵庫で24時間、じっくり引き出した旨味は、煮物、炊き込みご飯、汁物や、餃子の餡など幅広く使えて便利。


乾燥させると生のものより栄養価が高くなるとされ、ビタミンD、カリウム、食物繊維、グアニル酸、レンチオニン、エリタデニンと盛りだくさん。しっかりした歯ごたえとジューシーさは、太陽と風と水という自然のエネルギーが詰まった原木椎茸だからこその美味しさかもしれません。


春子、冬子、冬菇、香信、雨子、日和子といったように収穫時期や状況で呼び方を変え、農家さん同士のコミュニケーションがスムーズにはかれるようにした知恵とともに、干し椎茸の美味しさをもっと知ってほしいと思います。